雇用の多様化と分配的公正・手続き的公正

サマリー

「公正(justice)」の概念は、1960年代から欧米を中心に議論がなされ、今日では組織の構成員の判断や行動を規定する社会的な価値であると認識されている。公平感を知覚(「公正知覚」)することによって、組織の構成員は組織の決定や葛藤結果に対する満足や受容を高めたり、組織への愛着やコミットメント、モチベーション、職務満足などを高めたりすることが、多くの研究によって報告されている。
公正知覚を形成するのは、配分の結果に対する「分配的公正」と、配分の過程に対する「手続き的公正」である。分配的公正は、給与、昇進・昇格、職務配置など、配分の対象となる経営資源や職務成果を研究の対象とし、手続き的公正は、配分を決定する過程への構成員のかかわり方や度合を研究の対象としてきた。
企業の就業者構成の多様化が進んでいる今日、様々な背景をもつ就業者間の「公正」をどのようにバランスさせるかは、困難な課題である。分配的公正が対象とする資源・成果の種類についても、様々な就業者のもつ個人的背景の広がりにより、従来よりも広範なものがその対象として認識されてきているように思われる。従来は定年まで保障されていると考えられていた雇用継続や、年齢(あるいは勤続年数)によって比較的平等に与えられると認識されていた職務訓練の機会や昇進の可能性、それに近年就業者からの需要が高まっている個人生活に対するサポートも、分配されるべき対象と考えることができるだろう。
分配の手続き的公正については、暗黙のうちに認識されていた時間的平等(年齢や勤続年数による機会の平等)の基準が崩れつつある現在、公正知覚を形成するためには、それぞれの企業ごとに、より明示的に検討される必要があるのではないだろうか。
女性雇用に関するデータを雇用の多様化の例として用い、教育訓練や昇進機会の分配の結果である女性の役職者への登用の程度と、両立支援の提供が、手続き的公平(評価基準の明示と個別の内容告知)によって、企業の生産性にどのような影響与えるかを観察したところ、限定的なデータではあるが、手続き的公正が実現されていると思われる企業で、女性の登用や両立支援の生産性への貢献が強まっている可能性が見られた。

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