米国公務員年金基金の株主行動におけるESG課題

サマリー

本稿は米国の公務員年金を中心に、機関投資家が株主行動の中に、どのようにESGに関する課題を取り込んでいるかを概観する。
まず、株式市場における年金基金の影響力を知る手がかりとして、米国の株式市場における年金基金の株式保有比率とその変化を確認する。公務員年金基金は、資産残高の伸びと、株式資産への配分比率の伸びとの双方により、存在感を増している。
年金基金における受託者責任と議決権行使の関係とその現状について整理をすると1974年のERISA(従業員退職所得保障法)は、民間の年金基金の受託者責任について定めている。公務員年金はERISAの対象とはらならいが、ERISAと同様の受託者責任を負うとされている。議決権行使に関しては、1988年に労働省から出されたエイボン・レターにより、受託者責任の一部とされた。2006年のPRI(Principles for Responsible Investment;責任投資原則)は、「環境(E)・社会(S)・企業統治(G)」のいわゆる「ESG課題」は運用ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があるとし、受託者責任の下でも責任投資が成り立つ枠組みを示した。
株主行動の事例としてCalPERS、ニューヨーク市の状況を示す。CalPERSが2008年以降議決権を行使した837件のうち「社会・環境」に関するものは110件程度であった。ューヨーク市は2007年に108件の株主提案をしたが、このうち「社会・環境」に関するものは82件であった。108件の半数程度で彼らは経営者、あるいは多数株主の支持を得た。大手機関投資家同士は協働の場を複数もっており、株主行動も相互に関連しているように見受けられる。
今後も①独断の排除、②影響力の確保、③費用の低減などの観点から、機関投資家同士の協働が必要であろう。また、ESG課題と財務パフォーマンス、株式パフォーマンスとの関連を議論するためには、定量化データの収集や分析、多様な解釈などが必要で、機関投資家に加えて運用機関、研究者、NPOなど幅広い主体の協働が必要となろう。

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