限界削減費用曲線は、排出削減目標を達成するのに必要な費用の見積もり、炭素税や排出量取引などにおける検討材料、企業が排出削減を事業の意思決定に反映させるためのICPなど幅広く利用することができる。限界削減費用曲線の推計結果は手法によって大きく異なり、推計結果の利用の際にはその手法の特徴や前提条件などを把握しておく必要がある。そこで、本稿では、限界削減費用曲線について、代表的な推計手法を紹介する。
本稿では推計手法を大きくエキスパートベースとモデルベースに区分し、モデルベースは更にボトムアップモデル、トップダウンモデル、ハイブリッドモデルに分類した。そのうちエキスパートベース、ボトムアップモデルおよびトップダウンモデルについて紹介する。
エキスパートベースは専門家が試算した個々のGHG削減技術に係る削減費用を用いて限界削減費用曲線を作成する。ボトムアップモデルには様々なモデルがあるが、TIMERモデル、MARKALモデル、TIMESモデルを紹介する。例えば、TIMERモデルは段階的に課される炭素税を限界削減費用とみなしてGHG削減量との関係を用いて限界削減費用曲線を導く。また、トップダウンモデルはマクロ経済に主眼を置き、生産額や効用とGHG排出量の関係などから限界削減費用曲線を導出する。トップダウンモデルでは、一般均衡理論を用いたCGEモデル(本稿ではGREENモデル、EPPAモデル、AIM/CGEモデルを紹介)と距離関数を用いたDDFモデルを紹介する。
本稿では、これらのモデルの特徴や使用例を紹介するとともに、推計手法(エキスパートベース、ボトムアップモデル、トップダウンモデル)ごとの長所や短所を挙げて比較を行う。