【Short Review】金融機関の気候変動に関する開示状況調査(2022年3月期)

サマリー

 2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための国際枠組みであるパリ協定の運用が開始し、世界的に脱炭素に向けた取り組みが加速している。金融分野においても気候変動問題に関する議論が活発化し、2021年7月に金融安定理事会(FSB)が「気候関連金融リスクに対処するためのロードマップ」を公表するなど、気候変動に向けた対応が本格化している。
 わが国における金融機関に関する最近の気候変動政策においては、東京証券取引所が2021年6月に「コーポレートガバナンス・コード」を改訂し、コーポレートガバナンス・コードの補充原則において、TCFD提言等に基づいた開示の充実を追加した。一方、日本銀行は2021年9月に「気候変動対応を支援するための資金供給オペレーション」の実施を発表し、TCFDの提言する4項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)および投融資の目標・実績を開示している金融機関を対象として、民間における気候変動対応を支援することになった。
 以上のように気候変動に向けた金融機関の対応についてはTCFD提言による開示が重要な役割を果たしており、2021年3月期と比較しても金融機関のTCFD提言への賛同表明の増加や開示内容の充実が見られる。そこで、本稿では昨年に引き続き、TCFD提言を踏まえ銀行が気候変動への対策について現状どのような開示をしているか、さらに気候変動のリスクと機会に関するシナリオ分析、温室効果ガス排出量の基準の一つであるScope3排出量の算定等にどのように取り組んでいるかについて調査した。
 その結果、全体として銀行のTCFDの賛同表明が2021年3月期と比較すると増加し、情報開示も充実した。一方で、TCFDの提言する4項目に沿って見ていくと、2021年3月期と同様に銀行によって取り組み状況に差があることがわかる。特に「温室効果ガス排出量(Scope3)の目標と実績」の開示については、銀行としてカテゴリー15である投融資ポートフォリオの算定が困難であることから2022年3月期は未公表とした先が多く、先行して開示した銀行では試算ベースでの公表が多かった。この点については、投融資先排出量の測定と開示を標準化するためのイニシアティブであるPCAF(Partnership for Carbon Accounting Financials)に参加する銀行が増加していることからも、今後ますますTCFD提言に基づく気候変動対策の情報開示が充実していくと考えられる。

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