コーポレート・ガバナンスと経済効率性(1)

サマリー

コーポレート・ガバナンスと企業活動の経済効率性との関係は市場、或いは契約がどの程度完全かという前提により理論的帰結は変わってくる。まず、経済学的な完全市場、完備契約を前提とした場合には、誰が企業経営への影響力を持っていても常に最適な企業行動が選択される。なぜなら、そのような場合には、当事者間の利害調整が可能なため、分配問題と経済効率性は分離されるからである(コースの定理)。この前提に非対称情報、不確実性を導入した場合にも、これに準じた議論が成立する。即ち、リスク回避度の低い経営者がリスクを負うというリスクシェアリング上の非効率は生じるが、これは非対称情報の下で望ましい結果を得るための必要な費用であり、次善的に望ましい均衡(セカンドベスト)は達成されうる。このため、契約理論の観点からは、コーポレート・ガバナンスの契約的側面がセカンドベストからどの程度乖離しているかが問題となってこよう。他方、契約が不完備である場合(契約に将来起こりうる事象全てに対応していない場合、契約が将来の再交渉により無効となる可能性がある場合)には、誰が企業の意思決定に裁量を持つかという問題(残余コントロール権の配分)が重要になってくる。なぜなら契約に信憑性がない中で頼りになるのは事後的な交渉力であり、これが各主体の企業への事前的な関わりを決めるからである。この観点からは、企業への貢献度、契約による利害保全の度合い、(主権がない場合の)事後的な交渉力の有無といった点から、誰が企業の主権者となるべきかを考える必要がある。上記の観点から日本企業のガバナンスを考えると、まず多くの企業では経営者のインセンティブがセカンドベスト的な状態となっていない可能性があり、インセンティブがどの程度セカンドベスト的な状況から乖離しているかにより、企業のパフォーマンスは変わってくる可能性がある。他方、事後的な交渉力の役割という観点からは、従業員と株主の相対的な交渉力も重要な観点となってくる。なぜなら、従業員は企業特殊的な貢献から準レント生成に寄与していると思われるし、雇用契約は決して完備性の高い契約ではなく、契約により利害が保護されている度合いも高いとは思われないからである。以上のように考えると、日本企業のコーポレート・ガバナンスは、経営者のエージェンシー問題への影響、株主、従業員間の相対的な交渉力の双方から企業の経済効率性に影響を及ぼす可能性がある。

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