コーポレート・ガバナンスと経済効率性(2)

サマリー

今月号ではコーポレート・ガバナンスと企業活動の経済効率性との関係を生産関数の推計により検証する。先月号で論じたように、コーポレート・ガバナンスは株主、従業員の相対的な交渉力にも影響するが、そのような分配の変化がサープラス(従業員の労働負担、株主のリスク負担以上の利益)がどちらに行くかという問題であれば、生産性には影響しない。なぜなら、各主体の行動に影響するのは、企業への貢献負担を上回る便益があるか否かであり、それが満たされる限り、それ以上の配分は企業行動に影響しないからである(コースの定理)。株主重視経営にしろ、従業員重視経営にしろ、長期的な視点から意思決定を行うのであれば、この条件は成立する。しかし、短期的な視点から株主重視、或いは従業員重視に経営が片寄りすぎる場合には、分配問題が各々の貢献の対価にまで及ぶ可能性(外部効果が生じる可能性)があり、結果として労働、或いは資本が過少となり、企業の経済効率性は低下する可能性がある。本稿は、過度の従業員重視経営が行われていた可能性がある、1990年代の日本企業を対象とした実証分析により、この点を検証する。分析の結果、従業員の交渉力にプラスの影響を及ぼすと考えられる従業員持ち株比率、メインバンク持ち株比率に関しては、生産性に対しマイナスの影響が認められた。他方、株主の交渉力にプラスの影響を及ぼすと考えられる外国人持ち株比率、年金持ち株比率に関しては生産性に対しプラスの影響が認められた。サンプルにおける労働分配率は、生産の労働弾力性(労働が1%増えた場合の付加価値の増加率)に比べ必ずしも高くなく、全体として労働分配率が高すぎたとは言えない。しかし、従業員の交渉力に関する変数が労働分配率とプラスの相関をもっており、一部の企業では短期的な視野からの従業員重視経営が外部効果に繋がる分配問題となり、物的資本に関する過少投資に繋がっていた可能性が示唆される。

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