新会計基準と財務指標~ROEの定義は利用目的により異なる可能性~

サマリー

本稿では、会社法施行後の新会計基準における、ROEについて利用目的別の定義を検討する。会計情報の経済学的な機能には、(1)意志決定支援機能と(2)契約支援機能との2つがあり、どちらを重視するかにより、望ましいROEの定義も変わってこよう。(1)は、非対称情報の下で実態の良い企業が過小評価されてしまう可能性(逆選択)を緩和する機能である。会計情報を通じて企業の実態が投資家に伝わることにより、企業評価、ひいては投資の意志決定が正しく行われることを促す機能である。そこでは将来の利益予想のために会計情報がどの程度、有用であるかが重要になる。そのような観点からは、含み損益や子会社持ち分の変化など一時的な要因に左右されないROEが適していると言える。但し、企業価値において将来の残余利益の価値が低く、現在の資産価値で評価されるような企業については、親会社持ち分、含み損益を反映したROEが望ましい可能性もある。他方、(2)は、非対称情報の下で経営者が株主価値最大化から乖離した行動を採ることを抑制する効果である。経営者報酬等に適切な会計情報を用いることにより、投資後の非効率を抑制する機能である。このような観点からは、経営者の行動の結果との関連性が強く、経営者の裁量的行動に左右されない会計数値が望ましいと考えられる。本業にかかわる経営者行動のみを評価するのであれば、純利益と株主資本から計算されるROEが望ましい一方、資本効率や保有している資産のヘッジも評価すべき経営者行動と捉えるならば、包括利益ベースのROEが望ましいとも考えられよう。

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