平成21年度退職給付会計の分析~退職給付債務の積立不足と企業の設備投資、資金調達の状況~

サマリー

未曾有の東日本大震災によって、日本経済への深刻な影響が懸念される中で、とりわけ、東北地方に本社や工場などの拠点をもつ企業の甚大な被害状況が報道されている。被災した地域の一日も早い復興が望まれる中で、企業システムの回復が重要であることはいうまでもないが、そのためには、設備の再投資や修復が不可欠である。その際、懸念されるのは、退職給付債務の積立不足が足枷となる可能性である。
平成21年度の退職給付会計の状況は、国内外の株式市場の回復を受けて、多くの企業の積立比率が改善したと推察される一方で、総資産に占める退職給付債務の比率は依然として大きく、未認識債務が自己資本に与える影響が小さくない企業も散見される。現行の退職給付会計基準の下では、退職給付債務に対する積立不足の遅延認識が認められており、積立不足が直ちにバランスシート上で認識されるわけではない。しかしながら、オフバランスされた債務が将来のリスクとみなされる場合には、本業である企業活動に対して悪影響が及ぶ可能性もある。本稿では、このような問題意識の下で、退職給付債務の積立不足が、企業の設備投資、資金調達に与える影響について、企業の成長性や業種による違いを考慮した分析を行う。
分析の結果、成長企業については、非製造業において積立不足が大きいサンプルの設備投資比率が低い傾向がみられた。但し、トービンのqやキャッシュフロー比率も低いことなどから、積立不足の大きさが影響したというよりも、むしろ投資機会の違いを反映した結果であると考えられる。一方、成熟企業についてみると、この傾向は幾分低下する。なお、企業の成長性や業種に関わらず、企業のキャッシュフロー比率が、設備投資比率を上回っていることから、過少投資を示唆するような傾向はみられないと考えられる。また、将来の資金調達リスクに備えて、必要以上に資金を調達したり、手元流動性保有を促進したりする傾向もみられなかった。これらの結果は、積立不足の大きさが企業に非効率な経営を強いるような傾向を示すものではないと考えられる。
平成22年度の資産運用の状況に目を転じると、前年度と比べて、年金の資産運用は低調であった。従って、多くのプランスポンサーは、年金運用の目標利回りを達成できなかったと考えられ、積立不足が拡大している可能性がある。震災の影響により、今後、企業のキャッシュフローの水準は大きく低下すると考えられることから、設備投資需要の大きい企業の資金調達ニーズは高まっていくことが予想される。積立不足の大きさが与える影響について、引き続き注視していくことが重要である。

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