会計発生高と投資戦略

サマリー

本稿では、税効果会計と退職給付会計に焦点を当てつつ、会計発生高の要因分析、及び投資戦略への応用を検討する。会計発生高は会計上の利益とキャッシュフローとの差額と定義されるが、仮に投資家が合理的に長期的な視点から企業評価を行っている場合には、会計情報がどのような内容であるか、換言すれば会計発生高がどのような情報を含むかということは問題とならない。しかし、実際には投資家の合理性は有限であり、どのような会計情報を用いるかにより企業評価は異なってくる。一般に会計情報には、投資家への情報提供機能と利害調整機能がある。前者に関していえば、会計発生高は株式市場での適切な価格形成を促し、株式市場の資源配分機能を改善させる可能性がある。他方、後者に関しては、会計発生高が経営者行動の成果を適切に反映すればエージェンシー問題の解決に繋がる。反面、会計発生高自身が機会主義的な行動の対象となる場合には、これらの機能にマイナスの作用を及ぼす。このため、会計発生高がどのような要因によりもたらされているのかを検討することが重要であるし、そのような検討を企業評価に反映させることで投資戦略上も興味深い示唆が得られると考えられる。
先行研究によれば、利益管理(Earnings Management)の要因である経営者の動機は様々であり、状況に応じて利益の増減が行われることが示されている。Healy and Wahlen(1999)は、これらの動機について、①資本市場の動機、②契約の動機、③規制の動機に分類した上で、広範なサーベイを行っている。報告されている実証結果の多くは、経営者の機会主義的な会計行動を示唆している。例えば、MBOやIPOを有利な条件で実施するために、経営者が利益管理を行うことが指摘されている。また、経営者自身の報酬を目的とする場合や、企業を取り巻く規制への回避を目的とする場合に利益管理を行うことが示されている。一方、機会主義的な経営者の利益管理に対して、投資家は過大評価する傾向が散見される。また、このようなミスプライスを利用した投資戦略は、size効果やBP効果を考慮した場合でも、異常リターンが獲得可能であることが示唆されている。

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