会計発生高と投資戦略(2)~積立不足と株式リターン~

サマリー

本稿では、投資家が積立不足を正しく評価しているか否かを積立比率(積立不足÷株主資本)とその後のリターンとの関係から分析する。仮に、投資家が正しく積立不足を評価しているのであれば、積立不足の相対的な水準とリターンとの間に相関関係は存在しないはずである。なぜなら、積立不足の一部を遅延認識することによる足元の純利益、株主資本の過大表示は将来の退職給付費用とトレードオフの関係にあるからである。分析の結果、株主資本との対比で積立不足が大きい企業から成るポートフォリオのリターンは他の企業に比べ、有意にリターンが低くなった。このような傾向は積立比率の大きさとバリュー株効果、小型株効果が相関することによりもたらされている可能性もあるが、Fama=Frenchの3ファクターモデルによる検証においても同様の傾向が見られた。また、モメンタムも考慮した4ファクターモデルによっても傾向は保たれており、企業業績等のモメンタムを考慮しても積立比率が低い企業のリターンは低かった。更には、会計方針以外の積立不足の変化をコントロールするために会計基準変更時差異を基準としたソーティングポートフォリオによる分析も行ったが、同様の傾向が確認された。
本稿の分析結果は、積立不足が相対的に大きい企業が過大に評価され、これが徐々に是正されていくことを示している。換言すれば、退職給付会計の下で新たなアノマリーが生じていることを示唆している。また、このことは、現行の会計基準の下で企業の比較可能性が損なわれている可能性も示唆している。積立不足の遅延認識は、費用・収益対応の原則から否定されるべきものではないが、本稿で示したように投資家の合理性に限界があることにも留意する必要があろう。

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