雇用調整のメカニズムと出生率

サマリー

日興フィナンシャル・インテリジェンス(以下「NFI」)では、去る5月26日、日本女子大学人間社会学部教授 大沢真知子氏をお招きし、「雇用調整のメカニズムと出生率(“Flexible Employment and Fertility Decline in Japan”)と題するご講演をいただいた。本稿はその内容をご紹介するものである。過去30年間のOECD加盟30か国のうちで2000年の1人当たりGDPが1万ドル以上となっている24か国における女性の労働参加率と出生率の関係をみると、1970年にはその関係が正になっていたが、1985年にはフラットな関係に変化し、2000年には負の相関に変化している。このように女性の労働参加率と出生率との関係が変化したのは、女性の社会進出が進んだなかで、出生率が低下を続ける国と、回復する国が出てきたからである。大沢氏はそれらの相関関係の差異は、国ごとに異なる労使関係のあり方や、税・社会保障制度を含む社会システムと、それらから影響を受ける女性労働の就業パターンの差異に起因するものと指摘する。特に激化するグローバルな企業間競争において「雇用調整弁」として機能する非正規就労の在り方と出生率との関係に着目する。実際に国際間の比較で見ると、1994年から2004年の10年間に臨時労働者の割合が増加した韓国や日本やスペインでは同時期に合計特殊出生率が低下し、臨時労働者の割合が減少した米国や英国やデンマークでは出生率の回復がみられる。日本における妻の就労形態別の実際の子供の数と希望する子供の数とに関する調査結果を分析すると、妻が臨時(派遣)労働者の場合に最も実際の子供の数が少なく「産みたいのに産めない」という状況があることが分かった。これは90年代の日本の出生率の減少が晩婚化というより、「夫婦の出生力の低下」にあるとする分析とも整合する。非正規就労者はなぜ増加しているのか、その要因を分析してみると、労働力供給側の自発的要因(自ら非正規就労を希望する)よりも、労働需要側(企業の雇用方針)に、より大きな要因があることが分かる。この傾向は同じ経済構造をもつOECD諸国に共通の傾向であるが、その中で不安定な非正規就労の問題をどのように扱うのかの違いが、働く女性にも、出生率にも、社会保障制度にも、国全体のありようにも影響を与えている。

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