本稿では、平成20年度の退職給付会計に対する投資家の評価に注目して、企業の積立不足と株式パフォーマンスの関係について分析する。幾つかの先行研究によれば、投資家は企業の積立不足を株価に織り込むことが知られている。しかし、投資家が必ずしも合理的に評価しているかは定かではなく、積立不足の状況が合理的に評価されない場合には、それが明らかになった時点で、株価の修正(サプライズ)が生じると考えられる。
分析の結果、投資家は退職給付会計の状況について、それが開示される際には適切に株価に織り込んでいない可能性があるため、期中の費用処理を通じたキャッシュフローの下方修正などがきっかけとなり、サプライズが生じた可能性があることが示唆された。しかしながら、必ずしも費用処理とは関係のないケースについても、パフォーマンスが劣る傾向がみられることから、サプライズとの因果関係は必ずしも明らかではない。パフォーマンスが劣る要因としては、企業業績の不振と退職給付債務の大きさが見掛け上、相関した可能性や、外生的な要因により、退職給付債務に対する投資家の選好が変化した可能性も考えられる。