社会システム研究所
企業は一般に、様々なステークホルダー(株主、従業員、消費者、取引先、社会、環境等)と何らかの関わりを持っている。従って、企業が自らの価値を高めるためには、株主だけではなく、様々なステークホルダーへの配慮も必要となる。一方、企業がこのような経営姿勢を持つことは、企業の不祥事を抑制し、社会問題に発展することを未然に防ぐことになり、企業のリスクを低減させると考えられる。その場合、株主としてのリスクも低減することから、株主資本コスト(株主が出資した見返りに要求する収益率)は低下すると考えられる。この点を確かめるために、本稿では企業の経営理念にはステークホルダーへの配慮が表れていると仮定し、経営理念と株主資本コストの関係を分析する。ここで、企業がどのステークホルダーに配慮しているかは、決算短信の経営方針の中に、どのステークホルダーに関連するキーワードが含まれているかによって判断する。
分析の結果、ステークホルダーのうち株主のみに配慮する企業では、明らかに株主資本コストが低い傾向が確認された。次に、株主に加えて他のステークホルダーにも配慮する企業についてみると、有意水準は低下するものの、株主資本コストが低い傾向がみられた。その一方、株主を含む全てのステークホルダーへの配慮がみられない企業においては、有意水準は低いものの、株主資本コストが高い傾向が確認された。これらの結果は、株主および株主以外のステークホルダーにも配慮するような企業の経営姿勢が、株主資本コストを低下させる可能性があることを示すものと考えられる。