社会システム研究所
近年、企業の意思決定に関わる役割を担うメンバーの多様性(意思決定ボードのダイバーシティ)の進展に取り組む動きがみられる。この背景には、ダイバーシティがイノベーションを生み、企業価値を高めると考えられていることが挙げられる。しかしながら、ダイバーシティがイノベーションを生むという関係は必ずしも自明ではない。そこで本稿では、先行研究を概観することにより、ダイバーシティとイノベーションの関係が実証的に確認されているか否かを明らかにする。
ダイバーシティの効果については、(1)コスト、(2)人材の獲得、(3)マーケティング、(4)創造性、(5)問題解決、(6)企業組織の柔軟性などの観点から、競争上の優位性が論じられることが多いが(Cox and Blake, 1991)、本稿では主として、(4)創造性および(5)問題解決に関する実証研究を取り上げた。それによると、デモグラフィーに関連するダイバーシティに比べて、業務に関連するダイバーシティが進展するほど、その効果が発揮されることを示した実証研究が多くみられており、概ねダイバーシティが進んでいる企業の優位性が期待できることを示唆していると考えられる。次に、トップマネジメントのダイバーシティに関する研究結果についてみると、創造性や問題解決などの点において、ダイバーシティの効果が発揮されることが示されている。しかしながら、ダイバーシティの構成要素によっては、ダイバーシティの進展が諸刃の剣となり得る可能性も示されている点に注意が必要である。従って、実務においてダイバーシティの取り組みを進める上では、ダイバーシティを機能させるためのマネジメントが重要になると考えられる。