退職給付会計と起債による積立不足への対応について

サマリー

退職給付会計は、国際的には、経済の実態の捕捉可能性を高める情報開示の強化、および基準への変更へと向かっている。
米国では2003年6月にGM(ゼネラルモーターズ)社が176億ドルの起債を行い、うち123億ドルを年金制度の積立不足に拠出したが、調達コストを1.5%上回る高い水準の期待運用収益率を設定していたことから、年金制度の経済実態に相反する企業利益の計上につながり、退職給付会計のあり方が批判をうけた。その後改正されたFAS132では、年金制度に関するディスクロージャーが強化された。英国では2004年3月に、老舗百貨店のM&S(マークス&スペンサー)が4億ポンドの起債を行い、年金制度の積立不足に充当した。英国では数理計算上の差異(運用差損益等)を即時認識する会計基準(FRS17)が2005年から適用されるが、同社はこの基準適用を前倒しした企業行動であるとしている。数理計算上の差異の遅延認識を認めない英国基準の導入は、確定給付型企業年金の縮小、債券運用への資産シフトなどの現象を起こしている。日本ではこの5月に、日産自動車が起債により調達した2,280億円の現金を退職給付信託として設定すると発表した。団塊世代の大量定年退職到来によるキャッシュフローへの要請に対処しつつ積立比率を高める対応として評価される。企業評価の観点からは、バランスシート上では負債の置き換え(日本では「退職給付引当金」→「社債」)にすぎないが、年金制度の積立比率を高め、年金ALMの効率を高めることにつながるのであれば、企業財務のリスク低減(キャッシュフローの安定)を通じて企業評価は向上するであろう。国際的な会計基準収斂の動きをにらみつつ、日本企業にとっては積立比率引き上げと年金ALM管理強化とが課題である。また制度見直しに当たっては人事管理の観点からの検討も欠かせない。

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