退職給付債務の状況と設備投資等への影響

サマリー

退職給付会計は2005年3月期で5回目の決算を迎えた。この間、資金繰り上の積立不足(未積立PBO)は2002年度(2003年3月期)には平均で株主資本の約27%の水準に達していたが、その後は代行返上等によるPBOの減少、株高による年金資産の増加から減少し、2004年度(2005年3月期)には株主資本の15%の水準にまで低下している。また、費用認識上の積立不足(未認識債務)の負担も大きく緩和されている。更には、フロー面においても、勤務費用、利息費用、未認識債務消却費用はいずれも2002年度以降減少しており、利益への負担も緩和しつつある。
以上のように、全体として積立不足の負担は緩和したが、積立不足負担に依然として企業間格差があることには注意を要する。2004年度においても、未積立PBOが株主資本の50%以上に達する企業は全体の1割弱に達する。また、このような負担は成熟企業よりも成長企業で大きくなっている。業種別に見ても、未積立PBO、未認識債務の負担に大きな格差がある他、これらの負担が大きい業種では高い割引率が選択される傾向があり、財務数値上の負担よりも実際の負担は大きい可能性がある。
積立不足は企業の資金繰りを圧迫し、設備投資の足枷となることが懸念されていたが、2002年度に積立不足負担がピークアウトするのと軌を一にして企業の設備投資は回復企業を辿っている。この背景には景気回復や内部資金の充実も影響していると考えられるが、全体として、積立不足が企業の投資行動に及ぼす悪影響は後退しつつあると捉えられる。しかし、企業間の格差を見ると、積立不足負担が大きい企業はそうでない企業に比べ、設備投資や新規従業員の採用に消極的な傾向が見てとれる。また、そのような傾向は成長企業において特に顕著である。
積立不足負担は、投資行動への影響を通じて企業の競争力格差に繋がる可能性があり、後払い賃金型の退職給付における、財務上のコストと人事上のベネフィットのトレードオフという課題は依然として残っている。

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