退職給付費用と株価

サマリー

本稿では、市場が退職給付関連費用をどのように評価しているかを実証的に明らかにする。仮に、ミスプライスに関して裁定が働き、市場が合理的に退職給付費用を評価しているのであれば、利息費用や期待運用収益といった継続的な項目は相応に株価と関連性を持つ一方、過去に発生した未認識債務の評価費用は株価と関連性を持たないはずである。なぜなら、年金資産、退職給付債務の価値は、情報開示が適切であればそれぞれ将来にわたる期待運用収益、利息費用の割引現在価値に等しくなり、これらの数値は前期の変動を考慮した年金資産、退職給付債務をもとに算定されるからである。換言すれば、償却費用のうち、株価と関連性を持ちうるものがあるとすれば、それは当期に新たに発生した積立不足と相関する部分のみである。
2000~2005年度のパネルデータを用いた分析の結果、我が国においては、償却費用が株価と統計的に有意に関連している可能性が示唆された。このような傾向は、割引率や期待運用収益率の水準を調整した分析によっても変わらなかった。また、年金収益(期待運用収益-利息費用)の代わりに、未積立退職給付債務(退職給付債務-年金資産)を用いた分析においても償却費用のパラメータは統計的に有意になった。こうした結果は、投資家は営業利益や経常利益、あるいは当期利益に含まれている事業活動関連の損益と年金関連の損益を区別せずに企業評価を行っている可能性を示唆している。換言すれば、異なる性格のものが混在している利益を重視することによってミスプライスがもたらされている可能性を示唆している。最終的な利益のみを見るのではなく、事業収益と年金関連の損益とを区別した企業評価が望まれる。

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