財務レバレッジと内部資本市場

サマリー

本稿では、負債が企業内部のキャッシュフロー配分(内部資本市場)に与える影響を分析する1。昨今は、好調な企業業績を背景に企業の手許流動性が手厚くなる一方、M&Aの増加や配当政策への関心の高まりから、企業の資本構成に関する関心が高まっている。日本の大企業の多くは複数の事業セグメントを持つ多角化企業であるが、このような多角化企業にとって望ましい資本構成とはどのようなものであろうか。負債が企業全体の投資水準に及ぼす影響は多くの先行研究により論じられているが、負債が企業内部の資金配分の効率性に与える影響については殆ど分析が行われていない。内部資本市場は外部資本市場に比べ、資金の出し手と使い手との間の非対称情報が小さい一方、新たなエージェンシー問題の源泉となる可能性もある。具体的には、内部資本市場は逆選択の問題を緩和することで過小投資を緩和する可能性がある一方、各事業セグメントが保身的な投資を行わないように資金再配分が必要になるという非効率もあるといわれている。負債の存在はこのような内部資本市場のコスト、ベネフィットにどのように影響するであろうか。
分析の結果、財務レバレッジは企業内部の資金配分の効率性を低下させることが示唆された。具体的にはレバレッジが高い企業では、投資の投資機会に対する感応度が低下する一方で、キャッシュフローへの感応度が高まることが示された。つまり、負債が多くなると、収益性よりも短期的な資金回収を重視した投資に繋がりやすい可能性が示唆された。特に短期負債の大きい企業ではそのような傾向が明確であり、返済資金手当のために長期的な収益よりも短期的な流動性重視での投資を誘因する可能性が示唆された。財務レバレッジを高めることは企業全体の投資について過剰投資を抑制する可能性があるが、このような内部資金配分の効率性にも配慮することが重要と思われる。

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