本稿は、東証一部上場の一般事業会社(除く金融)のうち、平成19年度決算において退職給付債務の額が大きかった50社の連結決算を取り上げ、平成20年度決算期における退職給付会計の概要を報告するものである。平成20年度の年金の資産運用は、前年度以上に厳しいものとなっており、積立比率の悪化を通じて企業業績を押し下げる要因となる。さらに、現在、国際会計基準(IFRS)のコンバージェンスやアドプションの議論が進んでおり、現行制度と異なる会計処理が適用されることによる企業財務への影響も懸念される。
以上の観点を中心に50社の状況について概観した結果、以下のことが明らかとなった。
即ち、(1)50社平均の積立比率は前年度に比べて12.2%低下し、60.1%となったこと、この要因として、(2)資産運用の不振による多額の年金数理計算上の差異(利差損)が発生したことが考えられ、50社平均の自己資本及び総資産に対する比率はそれぞれ8.5%、2.3%にも上ることが明らかとなった。さらに、簡単な試算により会計制度変更の影響について確認したところ、積立不足と年金の資産運用リスクが企業財務に大きな影響を与える可能性が示された。とりわけ、年金の資産運用リスクは、企業経営におけるリスク管理の重要性を示唆するものである。