CSRと経営者行動

サマリー

SRI(社会的責任投資)ファンドへの資金流入など企業の社会的責任(CSR)への関心は高まっているが、CSRは企業価値最大化という株主の目的と矛盾するとの見方も根強い。しかし、CSRを「ステイクホルダーに対する外部効果是正へのコミットメント」と定義するならば、企業価値最大化と一致しうる。重要なのは、CSRという企業価値最大化に向けたコミットメントが有効であるかを経営者のインセンティブという観点から検討することであろう。換言すれば、一般的なコーポレート・ガバナンス・システムとの比較から、経営者への動機づけ、規律づけ効果とその帰結を検討することが肝要と思われる。
CSRというコミットメントが従業員、地域社会、取引相手、消費者等から見て信頼性を持つのであれば、将来の経営者行動への信頼が増すことでステイクホルダーの企業との関わりが保たれ、企業価値が高まる可能性もある。とりわけ、従業員、取引相手の企業特殊的な貢献が高まる可能性がある。反面、CSRというコミットメントはステイクホルダーから見て信憑性に欠ける可能性もある。その場合、企業価値を高める効果は期待できない。更には、CSRにより経営者への評価尺度が曖昧になれば、経営者の責任を曖昧にしてしまう可能性がある。つまり、経営者の評価として多様なステイクホルダーの満足度を用いることには弊害も大きい。
以上のように、経営者行動への影響という観点からはCSRにはコスト、ベネフィットの双方が考えられるが、SRIの是非を論じるためには、そうしたコスト、ベネフィットが株価に織り込まれているか否かも検討する必要がある。更には、CSRがリスクファクターにも影響を及ぼしうることを踏まえると、SRIに関する事後的なリターンの分析から、CSRの効果を論じることには困難も伴う。SRIの是非を論じるためには、SRIに関するリターンの検証とともに、CSRの効果を直接的に検証することも重要であろう。

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