従業員CSRの視点からみた教育訓練

サマリー

従業員CSRとして検討される項目のうち、教育訓練は企業の知的資産を形成し、付加価値の源泉となるという意味において、戦略的に取り組むことの求められる分野である。
CSRとして教育訓練に取り組むにあたり考慮すべき点の第一は、企業ごとに付加価値の源泉となる知的資産のタイプを見極め必要な人材像を明確にし、それに必要なスキル獲得を目指して教育訓練を戦略的に計画することである。第二に教育訓練のもつ「報酬」としての機能に着目することである。短期的な顕在能力を評価する成果主義的評価制度により失われた、長期的な潜在能力評価の機能を教育訓練投資にもたせることで、成果主義型報酬制度のもとで従業員が負うリスクを緩和し、内的モチベーションを高める可能性が高い。それが従業員の企業特殊的技能習得への追加投資を促すのであれば、「教育訓練」はより戦略的に機能することになる。また報酬としての教育訓練は従来社会的制約により企業の内部労働市場の外側に置かれてきた女性労働者や未熟練若年労働者にも公平に与えられるべきであるが、それは低利用の労働資源の活用によるセレクション効果や、異質な知見に融合の場を与え、ダイバーシティ効果の発現の可能性を高めるなどの意味において、企業の知的資産を強化する戦略ともなりえるであろう。
第三に、従業員から見た望ましい教育訓練のあり方の検討がある。個人が直面するキャリア開発上の課題に対し経時的に支援する「長期的に計画された」教育訓練の視点が必要であると同時に、個人が直面する問題や課題は「仕事」「自己成長」「家庭」の3領域の相互作用から影響をうけていることへの理解が求められる。従業員個人の要請と、企業組織の要請とは調和する必要があるが、両者の調和を積極的に図ることにより従業員の内的モチベーションが向上するならば、企業の生産性の向上にも寄与するであろう。
2006年度に上場企業を対象に実施したNFI調査によると、実際多くの企業が従業員の能力開発を重視していることがわかった。また能力開発に取り組む企業の多くは、社員のワーク・ライフ・バランスへの配慮や男女の均等待遇などにもあわせて配慮している傾向があり、それは離職率を低め投資回収期間を長期化させる戦略となっている可能性がある。これらへの取り組みは、長期的に企業価値の向上に繋がる可能性があると考えられる。

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