本稿では、企業のCSRの取り組みがガバナンスの弱さを補完することにより株価急落リスク(crash risk)が低減することを明らかにしたKim et al.[2014]の分析⽅法に即して、わが国企業におけるCSRの取り組みと株価急落リスクの関係を検証する。わが国においては、コーポレートガバナンス・コード策定に関する有識者会議が8⽉にスタートするなど、企業のガバナンス改⾰が緒に就いたばかりである。わが国企業におけるCSRの取り組みとガバナンスが株価急落リスクに与える影響を明らかにすることは、学術的のみならず実務的な観点からも意義があると考えられる。
分析の結果、わが国企業におけるCSRの取り組みが株価急落リスクを低減する効果はみられなかった。この結果は、ガバナンスの弱い企業においても同様である。次に、ガバナンスの要因が株価急落リスクに与える直接的な影響を推計した結果、ガバナンス⾃体にも株価急落リスクを低減する効果はみられなかった。これらの結果は、いくつか検討の余地を残すものの、わが国企業のガバナンスが⼗分機能していないことを⽰唆している可能性がある。